なぜこれが大変なのか
設問が難しいからではありません。構造の問題です。原因が分かると打ち手が決まります。
「個人データの保存場所は」と聞かれても、自社のデータがどこにあるか把握できていなければ答えようがありません。チェックシート対応が遅い会社は、たいてい実態把握ができていないのであって、書く作業が遅いわけではありません。
別の顧客に違う答えを返すと、後で必ず矛盾します。契約書に引用されることもあります。その場しのぎの回答が、将来の自社を縛ります。
営業が急いで埋める、開発が推測で書く——これが最も事故ります。誰が答えるかを決めていないことが、品質のばらつきの正体です。
回答台帳をつくる
チェックシートが来てから調べるのではなく、先に自社の事実を確定させておくための一覧です。項目は少なくて構いません。重要なのは「誰が確認した事実か」と「いつ時点か」を残すことです。
| 列 | 入れるもの | なぜ必要か |
|---|---|---|
| 設問カテゴリ | 体制/取得/保存/提供/委託/事故対応/終了時 など | どのチェックシートも大枠は同じ。分類しておくと使い回せる |
| 標準回答 | そのまま貼れる文面 | 毎回書き直さない。表現のブレをなくす |
| 根拠 | 社内規程の条番号/設定画面/契約書の条項 | エビデンスを求められたとき即座に出せる |
| 確認者・確認日 | 誰がいつ事実を確認したか | 古い回答をそのまま出す事故を防ぐ |
| 条件付きの場合の条件 | 「◯◯のプランに限る」「別途契約が必要」など | できないことを約束しないための歯止め |
| 未対応の場合の状況 | いつまでに何をする予定か/代替措置 | 「未対応」で終わらせず、交渉可能な材料にする |
自社のデータの流れ(どこで取得し、誰が使い、どこに保存し、誰に渡し、いつ消すか)を1枚にする作業です。これがないと台帳の中身が埋まりません。順序は 勉強法の Step 2 を参照してください。個人情報保護委員会のデータマッピング・ツールキットが使えます(動画・研修に解説動画あり)。
回答の型
回答は必ず次の3つのどれかに分類します。曖昧な第4の選択肢を作らないことが最大のコツです。
| 分類 | 書き方 | 例 |
|---|---|---|
| できる | 事実+根拠。「対応しています」だけで終えない | 「対応しています。社内規程◯◯第◯条に定め、年1回の教育を実施しています(直近実施:◯年◯月)」 |
| 条件付きでできる | 条件を先に書く。後ろに書くと読み飛ばされる | 「Enterpriseプランに限り対応可能です。標準プランでは提供していません」 |
| できない | できない事実+代替措置+(あれば)予定 | 「現時点では対応していません。代替として◯◯を提供しています。◯年◯月期に対応を検討しています」 |
① 事実だけを書く(予定・意向を事実のように書かない)
② 自分が確認していないことは書かない(開発・情シスに確認してから)
③ 法令の話と自社ルールの話を混ぜない(規範レベルの区別。「法律で決まっている」と「うちのルール」は別物)
個人情報保護法まわりの頻出設問
設問の文言は会社ごとに違いますが、聞かれている中身はほぼ同じです。各項目を開くと、相手の意図・確認事項・回答例・注意点が出ます。
1. 個人情報保護方針を策定し、公表していますか
確認すること:公開URL/最終改定日/法定の公表事項(利用目的、開示等の請求手続、苦情申出先、安全管理措置の内容など)が漏れていないか。
根拠:法第32条(保有個人データに関する事項の公表等)ほか。
2. 個人情報保護管理者を設置していますか
確認すること:任命の記録(規程・辞令)/役職名/実際に機能しているか(形だけでないか)/連絡先。
3. 当社が預けるデータに個人情報は含まれますか/どう扱いますか
確認すること:自社の立場が「委託を受けて取り扱う」のか「第三者提供を受ける」のか/取り扱う項目/自社の目的(改善・分析)で使う場合はその範囲と根拠。
根拠:法第25条(委託先の監督)、法第27条第5項第1号。関連:事例集「委託先へ顧客CSVを渡したい」
4. 個人データの保存場所(国内/国外)を教えてください
確認すること:本番データの保存リージョン/バックアップの保存先/ログ・監視・CDN・サポートツールなど周辺システムの所在/サポート担当がどの国からアクセスするか。
根拠:法第28条(外国にある第三者への提供)、個人情報保護委員会「外国にある第三者への提供編」。関連:事例集「海外リージョンのSaaSを利用したい」
5. 再委託はありますか。管理方法を教えてください
確認すること:クラウド事業者・外部開発・BPO・サポート外注・監視サービスなどを再委託として列挙できるか/契約での事前承諾条項/再委託先への監督方法(契約・報告・監査)。
根拠:法第25条、通則編 3-4-4。
6. 従業者への教育を実施していますか(頻度は)
確認すること:直近の実施日/対象範囲(全社員か、派遣・業務委託を含むか)/受講率/記録の残し方/入社時教育の有無。
根拠:法第24条(従業者の監督)、通則編 10(人的安全管理措置)。
7. アクセス権限はどのように管理していますか
確認すること:付与の申請・承認フロー/異動・退職時の削除手順と所要時間/定期棚卸しの頻度と直近実施日/特権アカウントの扱い/本番データへの直接アクセスの可否。
根拠:法第23条(安全管理措置)、通則編 10(技術的安全管理措置)。関連:事例集「退職者アカウントを残したい」
8. アクセスログを取得・保管していますか(保管期間は)
確認すること:何のログを取っているか(認証/参照/エクスポート/管理操作)/保管期間/改ざん防止/顧客からの調査依頼に応じられるか。
9. 漏えい発生時の報告体制と、当社への通知期限を教えてください
確認すること:社内の検知〜エスカレーション経路/顧客通知の判断者/約束できる時間(24時間?72時間?)/夜間休日の体制/既存契約で約束している期限との整合。
根拠:法第26条(漏えい等の報告等)、施行規則、通則編 3-5-3。関連:CHAPTER 4 漏えい対応
10. 契約終了時のデータ返却・削除はどうなりますか
確認すること:エクスポート機能の有無と形式/削除までの猶予期間/バックアップからいつ消えるか/削除証明書を出せるか/ログに残る分の扱い。
11. 個人データの保存期間・削除ポリシーは
確認すること:データ種別ごとの保存期間/削除が自動か手動か/法令・契約上の保存義務がある分の切り分け/退会ユーザーの扱い。
12. 第三者提供はありますか
確認すること:委託・共同利用・第三者提供の区別/分析ツールや広告タグ経由の外部送信/法令に基づく提供(捜査関係事項照会等)への対応方針。
13. Pマーク・ISMS等の認証は取得していますか
確認すること:認証の種類・登録番号・適用範囲(全社か一部部門か)・有効期限。
14. 本人からの開示等の請求にどう対応しますか
確認すること:自社は委託先の立場か/請求を直接受けた場合の取り扱い(勝手に応じない)/顧客企業への連携手順/データ抽出・削除の技術的な可否と所要日数。
根拠:法第32条〜第39条。
15. 監査を受け入れられますか
確認すること:現地監査を受け入れる体制があるか/頻度・費用の扱い/代替(第三者認証の証明書、監査報告書、チェックシート回答、脆弱性診断結果の要約)/どこまで開示できるか。
やってはいけない回答
何も答えていないのと同じです。相手は判断できず、必ず追加質問が来て工数が倍になります。できない場合は「できない+代替+予定」で書きます。
最も高くつく選択です。契約後に発覚すると、債務不履行や信頼喪失につながります。チェックシートを通すことが目的ではありません。
悪意ではなく、受注したいから前向きに書いてしまいます。技術・運用に関わる設問は、事実を確認できる人が答えると決めておきます。
「法律で決まっているので」と書いたことが実は自社ルールだった、という誤りは信頼を損ないます。規範レベルを意識して分けて書きます。
体制や委託先は変わります。台帳に確認日を持たせて、古い回答をそのまま出さない仕組みにします。
運用のしかた
誰が答えるか
| 設問の種類 | 答える人 |
|---|---|
| 体制・規程・教育・認証 | セキュリティ担当/管理部門 |
| 保存場所・ログ・権限・削除の技術仕様 | 開発・インフラ(推測で書かせない) |
| 契約条件・通知期限・監査受入れ | 法務+セキュリティ担当(約束になるため単独で決めない) |
| 提出・顧客とのやり取り | 営業(ただし内容の改変はしない) |
いつ見直すか
- 年1回の定期見直し(確認日を更新する)
- 委託先・保存リージョン・プラン構成を変えたとき(その都度)
- 事故対応の体制や通知期限を変えたとき
- 認証を取得・更新・失効したとき
エビデンスを求められたら
「規程を見せてほしい」「設定画面のスクリーンショットを」と言われることがあります。出せるもの・出せないものを先に決めておくと、その場で悩まずに済みます。
- 出しやすい:認証書、規程の目次・該当条文の抜粋、年次診断結果の要約、教育の実施記録(受講率など)
- 慎重に:規程の全文、ネットワーク構成図、脆弱性診断の詳細レポート、従業者の個人名
- 秘密保持契約の範囲を確認し、提供先・提供範囲・返却の扱いを記録します